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2016-10-07-Fri-12:47

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 私が普段から良く通うミスタードーナッツ練馬駅前店で起きた、ある事件についてのお話です。
 
 バイト終わりに私はコーヒーを飲みたくなりました。時刻は二十二時。この時間まで営業している喫茶店は少ないですが、ミスタードーナッツは格が違います。なんと0時まで営業しています。他に選択肢も無いので迷うことなくまっすぐに私はミスタードーナッツに向かいました。
 千川通り沿いの歩道を東に向かって進んでいます。ミスタードーナッツまではおよそ十メートル程のところまで来たとき、ミスタードーナッツから東に十メートルほど離れたところにおじさんが歩いているのが見えました。おじさんは西に進んでいます。このままお互いに進めば、恐らくミスタードーナッツの入り口辺りですれ違う筈でした。
 しかし私の予測は外れます。おじさんとわたしはすれ違うことはありませんでした。おじさんはミスタードーナッツに入店したのです。そして私よりもおじさんは歩くのがどうやら早かったようです。ほとんど同じタイミングでしたが、おじさんの方が先に入店していきました。
 私はなんとなく考える事も無かったので、おじさんを観察していましたが、正直言って別段取り上げるほど気になる対象ではありません。私から見ておじさんは、練馬駅に数多いるおじさんの一人です。
 私も続けて入店しました。
 ミスタードーナッツ練馬駅前店に入店してまず私がする事は決まっています。レジカウンターに向かって右側の壁に掛けられているモニターを見ます。そのモニターにはこのお店の二階席の映像がリアルタイムで流されています。私にはどうしても二階席に座りたい理由がありました。私は喫煙者で、このお店の喫煙席は二階席にあります。半分くらいは煙草を吸う為に入店しているといっても過言ではありません。この日も例外なく私は自然と二階席の映像を確認しました。空席があるのかどうか確認したかったのです。
 二十二時という時間にも拘らず、店内は混み合っていました。二階席のモニターには空席が一つしかないのがはっきりと分かります。
 私の前に入店したおじさんのことが気になりました。おじさんがもし煙草を吸う人だったら、必ず二階席に行きたがる筈なのです。私は目の前のおじさんを見ます。
 おじさんはなんと、私と同じく二階席の映像を見ていました。
 私は確信しました。おじさんも喫煙者であると。そして喫煙席である二階席に確実に座りたいであろうと。
 その時、店員さんはカウンターに戻ってきておらず、私は考える事にしました。私とおじさん、どちらが二階席に一つだけある空席に座るべきなのか。答えはすぐに出ました。おじさんが先に入店したのだから、おじさんが先なのが筋であろうと。逆に私が座るべき理由もありません。あきらめる事にしました。
 店員さんがカウンターにいそいそと戻ってきました。おじさんがレジに呼ばれています。
 そして、もう一人の店員さんが別のレジで私を呼んでいました。私は何も考えずにレジに向かい、ブレンドコーヒーを注文します。店員さんがホットコーヒーをカップに注いでいる間、まずい事になったと私は気付きました。
 二階席に向かう階段は、レジカウンターの右側にあります。おじさんと私が今同時にレジカウンターに向かっていますが、私が注文を受けているカウンターの方が、二階席に向かう階段に近いのです。このままつつがなくホットコーヒーと二百七十円の交換が済んでしまうと、私の方が先に二階席に向かってしまう可能性が高い。
 店員さんが私のホットコーヒーを用意している間、この状況をどう切り抜ければ良いのか私は考えました。おじさんはきっと二階席に座りたい筈なのです。自然とおじさんの方が先に二階席に向かえるようにしなければなりません。
 隣のレジの様子を伺いました。おじさんは私と同じくホットコーヒーのみを注文したようです。恐らく私たちはほぼ同時にレジを離れることになりそうだと感じます。
 しかし深く考える時間はあまり取れませんでした。店員さんはホットコーヒーを持って私の元に戻ってきます。おじさんを担当する店員さんも、ほとんど同じタイミングでおじさんにホットコーヒーを渡しました。
 もう猶予はありません。お互いに自由になったタイミングは同じでした。私は目に付いたあるものを手に取ります。それは、レジの横に常備されていた新商品の予告チラシでした。そのチラシを店員さんに見せ、私は言います。
 「これはどんなドーナッツなんですか?」
 おじさんが階段を登っていく音だけが、私の耳には聞こえていました。店員さんには申し訳が無かったのですが、私は新商品に興味があったわけではありません。時間を稼ぐ為に取った行動でした。
 喫煙席ではない一階席で私は一人コーヒーを啜りながら考えました。世界は目に見えない誰かの優しさで溢れているのかもしれない。良い事をした感覚がありました。それは仕事終わりの一服よりも、気分のいいものだったかもしれません。
 二階席で一服しているおじさんの事を考えながら、私は読みかけの文庫本を開きました。
 今日起こったこの事件を「喫煙席椅子取り合戦不戦敗事件」と名付けました。

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